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佐藤誠子(石巻専修大学)
工藤与志文(東北大学)
[キーワード]知識の関連づけ,歴史学習,自己完結的推論,大学生
本研究は,大学生を対象に,歴史に関する知識学習の実態を明らかにするとともに,知識間の関連づけを企図した教授活動が歴史的事象の推論に及ぼす効果について検討するものである。検討にあたり,本研究では「コロンブス問題」を用いた。それは1492年にコロンブスが到着した西インド諸島の位置を尋ねるものであり,コロンブスに関する事実的知識(目的地,航路の方角,発見地等)を関連づけて学習することで解答可能な問題である。事前調査の結果,事実的知識を所有していても西インド諸島をインド亜大陸周辺に特定する者が少なくなく,彼らは問題間の解答の整合性に欠けていたことから,対象者の知識は個別的な状態にあることが推察された。そこで,問題の解決に直接関係する事実的知識だけでなく,その背景的知識を教授することでそれらの知識を関連づける教授活動をおこなった。その結果,コロンブス問題の適切解答が44%から73%に上昇し,歴史的事象の推論に積極的効果を及ぼしたことが示された。ただし,それでもなお西インド諸島の位置を誤ってインドに特定する者が一定数みられた。適切な関連づけを実現するための学習援助のあり方が今後の課題として挙げられた。

 

工藤与志文(東北大学)
[キーワード]小学校理科教科書,教材構成の論理,トゥールミン・モデル,証拠の隠された論証,論点先取の問題
本研究は,小学校理科教科書を対象に,トゥールミンの論証モデルによる「教材構成の論理」の分析を試みたものである。現在使われている教科書のうち,代表的な3種の教科書全学年分を調査し,データから結論を導いて論証している記述部分を抽出したところ,全部で198の論証が特定された。このうち,論拠の記述を伴っていたものは 19例 (9.6%)にすぎず,ほとんどの記述は「論拠の隠された論証」であった。また,データから結論への飛躍は,「上位カテゴリーヘの一般化」「現象と解釈の乖離」「モデルと実物の乖離」の3つのカテゴリーに分類された。これらの結果から,教科書の「教材構成の論理」には欠落があり,学習者がデータから結論への飛躍を埋められない場合,学習に失敗する可能性が高いことが示唆された。また,隠された論拠を「復元」するだけでは,将来学習すべき内容を現在の論証の論拠にするという逆説(教材構成における論点先取の問題)が生じることについても論じられた。さらに,授業改善の観点から,「論点先取の問題」を回避しつつ論証の信頼性を高めるための方策について提案がなされた。

理科授業におけるルール学習の促進・抑制要因に関する検討-小5「もののとけ方」の授業分析を通して-
蛯名正司,佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕もののとけ方,小学5年生,ルール学習,授業分析,アブダクション
本研究は,小学5年理科「もののとけ方」を対象に,授業におけるルール学習の成立条件を検討したものである。研究では,まず,教科杏の問題点を踏まえ,①複数事例の使用,②ルールの典型性が高い事例の優先的使用,③実験操作とルールとの関連づけという3つの方針に基づいた授業プランを作成し,溶解ルールの理解が促進されるかを事後評価課題により検討した(分析1)。さらに,分析lで得られた結果について,授業過程を分析することにより,授業者の教授活動およびその背僚にある授業者の教材解釈が児童の学習活動にいかなる影響を及ぼしたのかを検討した(分析2)。公立小学校5年生(66名)を対象に授業を実施した結果,授業プランの方針①の有効性は確認できたが,方針②及び③の有効性は確認できなかった。これらの結果について授業過程の分析を行ったところ,①の有効性は授業者による複数事例のカテゴリー化とそれによる推論を促す発問に負うところが大きいことが示唆された。他方,有効性が確認されなかった②③については,実験における定塁的な確認の不十分さや,仮説検証のための実験としての側面の弱さが影響を及ぽしていた可能性が示唆された。

工藤与志文
〔キーワード〕理科実験,観察の理論負荷性,重さの保存性,誤ルール,小学生
本論文では,小3理科授業において,「塩は水にとけない」という事実誤認が生じた事例を報告する。当該授業では,重さの保存性に関するルール(出入りがなければ重さは変わらない)の理解を目標の一つとしていた。一連の理科実験では,発泡入浴剤を水にとかして,泡(気体)の発生による重さの減少を観察させた。さらに,塩を水にとかす実験で,とけても物の重さは変わらないことを観察させた。しかしながら一部の児童は,入浴剤がとけたので重さが減った,重さが変わらないのだから食塩は水にとけないと結論づけてしまった。これらの事実は「観察の理論負荷性」の観点から考察され,「とけると重さが減少する」という誤ルールを持った児童と授業者は互いに異なった観察行為を実践していた可能性が示された。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,仮説的判断,定義ルール,大学生
ルールが教えられても課題解決に適用できないというルール学習の困難さについては,多くの先行研究で指摘されているところである。これを本研究では,自身の直観的判断を留保しルールとその操作のみに従って暫定的に判断する「仮説的判断」の不十分さゆえに生じるという学習者の思考過程の問題として捉え,その可能性について検討した。具体的には,四角形の定義ルールによる未知図形(3頂点が一直線上に並んだ特異な四角形)の判断課題をとりあげ,大学生7名を対象に行った討論記録から参加者のルール適用過程について考察した。その結果,経験による反証がなされ得ない定義ルールの場合でも,参加者は,自身の直観的判断を保持するようにルール以外の知識を持ち出しルールによる判断を拒否していたこと,また,ルールによる判断を認めたのは,ルールに直接示されていない情報や自身の知識との整合性が確認されたときであったことが明らかになった。これらの結果から,学習者にとってルールに従った仮説的判断は困難であること,ルールの学習を促すには,ルールが正しいとしたらどのようなことがみられるか検証可能な命題を導出させることが重要になることが示唆された。

工藤与志文
〔キーワード〕代理的知識操作,発問,教材解釈,理科授業,小学生
知識操作とは,学習者が課題解決のために知識表象を変形操作する心的活動のことである。本研究の目的は,小学校の理科授業における授業者と学習者の相互交渉過程を知識操作の観点から分析することであった。分析においては特に,学習者が行うべき知識操作の一部を教授者が代理的におこなう「代理的知識操作」に焦点を当てた。その結果,(1)学習上望ましい知識操作を自発的に行う学習者が少ないこと(2)発問の形式での代理的知識操作が学習を促進する効果を持つこと(3)授業者にとって代理的知識操作の重要性は必ずしも自明ではないことが示された。以上の結果から,代理的知識操作が学習者にとって補償的な機能を持つこと,および代理的知識操作の実行は授業者の教材解釈に大きく依存することが示唆された。

佐藤誠子,工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,属性ルール,カテゴリールール,推論,種子植物のルール学習
本研究は,種子植物の生殖ルール「花が咲く植物にはタネができる」の適用を促す教授法の効果について検討を行うものである。この生殖ルールはカテゴリーの包含関係を表すカテゴリールールとして捉えられるものであるが,学習者にとってルール命題の自発的な変形操作や具体的な予測の導出が困難であることが先行研究により示唆されてきた。そこで本研究では,生殖ルールに加えて「花の形が似ていれば,実やタネの形も似ている」という形ルールを提示することを提案した。形ルールは具体的な花の形と実・タネの形という属性の連合関係を表す属性ルールとして捉えられ,先のような生殖ルールによる処理の困難さを克服させることが期待された。大学生70名を対象に検討を行った結果,形ルールの追加提示は,花からタネ,実から花の存在の推論を促すこと,さらには,生殖ルールの逆操作を自発的に行えなかった者でも実から花の存在を推測する逆向き推論を可能にすることが示された。形ルールを提示する有効性は,アブダクション形式の推論を可能にすること,また,生殖ルールよりも具体性を持つ点で学習者にとって理解しやすく使いやすいルールであることにあると考察された。

工藤与志文,小石川秀一
〔キーワード〕理科授業,電流の学習,認識のずれ,小学生,教師
本論文は,小5「電流が生み出す力」の授業実践における子どもの認識とそれに関する教師の認識とのずれを示す事例の報告である。これらの事例では,事実認識
とコトバの意味に関して,教師の想定していた子どもの認識と実際の子どもの認識が大きく食い違っていた。4つの事例の分析を経て,以下の点が論じられた。 ①事例で示された認識のずれは,教師と子どものやりとりの中で初めて顕在化するような微妙なものであったが,授業目標の実現に大きな影響を与えるもので
あった。②子どもの思考は具体的なイメージにしばられる傾向があり,これが認識のずれをもたらす要因の一つであった。また,コトバの操作だけでイメージを 変化させるのは困難であった。③子どもたちに抽象概念を理解させるために,具体的な現象に置き換えて教えることは重要だが,それだけでは,個別の現象の学
習にとどまってしまう可能性が高いことが示された。この点を克服するためには,抽象概念と個別的現象を結びつけるはたらきをもつ経験が重要である。

工藤与志文
〔キーワード〕ルール学習,操作的思考,変数操作,関係操作,抽象度操作
近年,学習者によるルール命題の心的操作がルール学習に影響するという研究報告が増加している。本論文では,操作的思考の生起がルール学習においてきわめて重要であること,そして,これまでの研究において操作的思考が注目されてこなかった理由の1つに,研究者側のルール学習観が限定的であったことが関係していることを論じた。さらに,操作を変数操作,関係操作,抽象度操作の3つに分類する枠組みを提案した。最後に,操作的思考とルール学習に関する最近の研究を概観し,今後の研究の方向性について示唆をおこなった。